INTERVIEW

竹中平蔵が“竹中平蔵”になり得た時間の軌跡
~自分の物語を書き、縁に感動する~

INTERVIEWEE
竹中平蔵
アカデミーヒルズ理事長/東洋大学教授/慶應義塾大学名誉教授
INTERVIEWER
飛鷹全法
高野山高祖院住職

INTRODUCTION

今回は、大学教授、研究者と複数の顔をもち、かつては大臣を務めた竹中平蔵・アカデミーヒルズ理事長をゲストに迎えました。今日に至るまでのキャリアの軌跡を、素晴らしい人達との出会いを起点に振り返ります。彼のセルフマネジメント方法の端々から、現代人の多くが抱える時間に関する悩みの解決法を、飛鷹全法氏があぶり出します。

01
CHAPTER
経済学は共同体や人の人生そのもの。ロマンを感じて、経済学者に。

飛鷹 これまで各方面のフロントランナーを招いて、「時間」が働き方や生き方に与える影響についてお話を伺ってきました。時間についての議論を深める上で前提となるのは、時間には大きく分けて、24時間誰にでも共通する社会的時間と、自分自身を見つめる内的時間の2種があるのではないかということ。これは私自身が僧侶になる修行の中で、時間の質の違いというものに直面する機会があったことに由来し、各々に質問を重ねています。

竹中 時間とは何か。極めて哲学的なテーマですね。お亡くなりになった聖路加国際病院の日野原先生の有名なお話で感心したことがあります。若い人に「命ってなんだ?」と聞くと、若い人は心臓や脳だと答えた、と。しかし日野原さんの答えは「命というのは時間だよ」というものでした。命が無くなると時間が無くなる。命も時間も有限なんです。若い時は、時間は無限であるような気がしていました。

時間というのは本当に貴重です。お金を100万円無くしたら、頑張って働けばまた100万円取り戻せます。でも時間は取り戻せません。オックスフォード大学にある日時計には「時間を浪費する、それは罪である」と書かれています。単に効率的に時間を使えという意味ではなくて、自分の人生は時間そのものである、時間とは生きることである、だから人生を大切にしましょうというメッセージですね。

その一方で、経済学者の観点で言うと、時間には「消費の時間」と「投資の時間」があります。仕事をして目の前のものをこなすというのは消費の時間です。他方、時間と向き合う時間、つまりどういう風に自分は生きたら良いのかと考えるのは投資の時間。最近はAIの影響で、私たちの可処分時間が増えてきています。その結果自分と向き合う時間、投資の時間が増えてきた。それをどう上手く使うかというのが問われている時代だと思います。

飛鷹 全くその通りですね。ところで、竹中先生の最初のキャリアは学者でしたが、その道に進もうと思われたきっかけは?

竹中 大学に行ったら何を勉強しようかと青臭く考えていた高校生の頃、東京の大学を出たばかりの若い先生が私の高校で倫理社会を教えていました。素晴らしい先生だったので、その先生が当直の日の夜に、コーラとおかきを持って話を聞きに行ったんです。その時に「大学で何をするかは自分で決めなきゃいけない。けれども、大学に行きたくても行けない人がいるということを忘れないで、行けない人の分まで勉強しなさい」と言われ、胸が熱くなりました。父親は商店街で一番熱心な商売人で、朝早くから夜遅くまで働いているのに経済的に豊かではなかったので、どうしたら豊かになれるのか、どういう社会を作れば良いのですか?と聞いたら、「それは難しくてよくわからん。しかし世の中の経済や法律、政治とか、そういう原理原則が重要である」と言われました。その瞬間、原理原則を知るために私は経済を勉強するぞと決めたんです。

経済学を英語で言うと「エコノミクス」ですが、ギリシャ語の「オイコノミコス」という言葉が語源で、「共同体のあり方」という意味です。「私たち人間は社会の中でしか生きられない。その社会がどうあるべきかということは、自分がどう生きたいかということと殆ど同義になる。つまり経済学は人生そのものだ」 若い頃、そんな風に経済学にロマンを感じたのも強い動機になりましたね。

飛鷹 働き方にも関与していると思いますが、時間の考え方に変化が訪れたのはいつでしょうか?

竹中 40歳くらいでしょうか。「残業するほど暇じゃない」というTVコマーシャルを聞いて、これは素晴らしいと深く感心する機会がありました。また当時、ワシントンのIIEというシンクタンクで、所長のフレッド・バーグステンという人の下で働いていましたが、彼は誰にも合わない時間というのを必ず作るんです。30秒だけほしいと言っても、秘書は絶対に取り次がない。彼が非常に優秀なエコノミストだったこともあり、時間のマネジメントをプロアクティブにやることの大切さを知りました。

飛鷹 研究者当時はどういう時間感覚で働いていたんでしょうか?

竹中 学者の生活はある意味気まま。私が学者になりかったのは、嫌な人に会わなくて良いからですし、学者は自分のやりたいことだけやれば良い。何か言われたら「興味ありません」と言えば良いんですよ。興味ありませんなんて、会社組織の中で言ったら大変なことになりますよね。自分のやりたいことだけやっているから、忙しくてもそんなにしんどくないんです。

ところが50歳で人生が変わった。小泉純一郎(元首相)さんに誘われて入閣しました。

02
CHAPTER
入閣を機に変わった時間のマネジメント法。柔軟なスイッチングがアウトプットの質を上げる

竹中 入閣後は、学者とは正反対で、40度の高熱があっても国会に這ってでも行く。自己管理できないような人間はクビになります。

飛鷹 それで、時間の付き合い方を変えられたんでしょうか?

竹中 大きく変えましたね。それまでは少々無理して睡眠時間を削ってでも業績を上げたい、社会を良くするための提言をしたいと、アウトカムの最大化を意識してきました。ところが大臣になってからはアウトカム以上に、健康管理の優先順位が上がります。よって、病気をしないために6時間寝るということにスイッチしなければならなくなりました。人生の中でスイッチングというのは様々な局面であるでしょうし、私はそこにキャリアにおけるヒントがあるように思います。私は丁度50歳という節目で外部から与えられる形でしたが、ある意味ラッキーだったと思っています。

飛鷹 今までは日本のビジネスパーソンの方々は朝から働きずくめで、ある意味それが日本の成長を支えた部分もあったでしょうが、それが一義的に良いアウトプットに結びつかないような時代になっている。そういう意味で、先生ご自身がスイッチングされた時のアウトプットの質そのものはいかがでしたか?

竹中 その評価は難しいですが、ちゃんと睡眠をとっていたから5年5か月全うできたと思います。また、アウトカムをどれくらいのタイムスパンで測るかということも大事です。明日の仕事を一番良くすることよりも、70年80年か分かりませんが限られた人生の中で長期的に良くすることを考えなければいけません。

03
CHAPTER
自分の好きなことを追求することが大事。感動の多い人生をプロデュースしよう

飛鷹 今のお話は、先ほどの「時間とは命だ」というのとまさに表裏一体ですね。時間のマネジメントそのものが、実は命の長さとつながっているということを示唆しています。これまでは医療・福祉といった社会インフラのお陰で日本人の寿命が高いと言われていたかもしれませんが、自分の時間をどうマネジメントしていくかという内的な発想が、今後長寿やウェルネスを考える上で新しいテーマだと思います。

竹中 人生100年時代を見据えて、自分をどうプロデュースするかがとても大事だと思います。今の学生にプロデュース論がウケることもあって、10年後を想定して自分の履歴書を書いてみたら面白いよと、若い人にはよく言うんです。それから逆算すると、今何をやらなきゃいけないかが見えてきますから。セルフプロデュースへの興味の背景には、これから先の人生が見通せない不安が大きいでしょう。だからこそ、ポジティブに自分の人生をプロデュースできる人は強いですね。

飛鷹 人生の長さというのは、まさに自分の人生の物語の長さでもありますよね。今までの話を通じて、竹中先生の物事の受け取り方には文学的想像力みたいなものを感じました。例えば、経済学者を志すきっかけにしても、日本の高い経済成長率とか、経済合理性的にいい職業だとかの客観的な理由ではなく、目の前のお父様の商店街や、人格的に非常に魅力的な先生との出会いがもたらした感情の変化を語ってらっしゃいました。まさに物語の始まりですよね。竹中先生は幼い時から、自分の人生の物語を描くんだという意思が備わっていたように感じます。

人生100年時代の話とつなげると、私たちの多くは現状、80歳以降の人生の物語をあまり描けていないのかもしれません。ひょっとすると、100歳のときに自分より20歳も若い80代の患者さんを診ていた日野原先生や、50歳で時間感覚をスイッチングした竹中先生のような方々をロールモデルにすることがヒントになるように思います。

竹中 良い人生とは何か、楽しい人生とは何だろうかという問いから、生き方、時間との付き合い方を考えるのが良いように思います。私の場合、人生において一番素晴らしいのは「感動」なんですね。憧れとも言えます。そして、感動をもたらしてくれる突き抜けたものを見ていると、本当にやりたいことをやろうと思える。

やりたいことを追求した原体験に、国鉄の時刻表を丸暗記していた少年時代があります。お金が無くて旅ができないから、時刻表を眺めて、異国を旅する感動を想像し、物語を一人思い描いていたんです。今思えば変な子でしたが、あの時は小さい文字を何時間読んでも全く疲れなかった。私はよく「オタクは絶対過労死しない」って言うんですよ。自分の好きなことをやっている人は過労死しない。少年時代の私が教えてくれたことでもあります。

飛鷹 逆に言うと、外から強いられた時間を過ごすと、精神が参ってしまうのでしょうね。自分の好きなことなら、何時間やっても人はもっと精神的にハイな状態で仕事できますね。

竹中 ある学生が世界を代表する100社の社長にアンケート調査をして、あなたはどうして社長になって成功したのだと思いますか?と聞きました。その中で一番多かった答えが「自分の好きなことを仕事にしたから」。非常に象徴的ですね。

飛鷹 先生ご自身は今までのキャリアを振り返って、自分は好きなことをやって来たなという実感はありますか?

竹中 ある米国人に「あなたは米国人以上に仕事がよく変わっている」と言われたことがあります。確かに開発銀行、留学、大蔵省、慶応大学、政治家、また大学に戻って今ここの理事長などを兼職しています。「私に給料をくれる人が時々違うだけで、私はずっと同じことをやっている。」と答えました。興味はずっと経済の分析と政策提言にあり、多分それが好きなことをやっているということなのでしょう。

飛鷹 私も様々な方とのセッションを通して、自分が本当にやりたいことを見出す力が大切なんだとつくづく感じてきました。しかし現実的には、競争社会や格差によって思い通りにいかないことのほうが多い。先生の場合はそれらをどう克服されましたか?

竹中 思い通りにいかないことから考えることが自分をプロデュースすることだと思うんですね。今できることから考えるのではなく、今できないこと、もっとやりたいことをするにはどうしたら良いだろうかと。ある程度何かを我慢する時期も必要ですし、次を見据えて今やるべきことを絞ることが自分をプロデュースすることだと思います。

飛鷹 実際に経済の勉強を始められて、例えば大学は米国に留学して研究員になって、政界にも入って、などと初めから具体的にイメージを描いていらっしゃったのですか?

竹中 漠然としたイメージだけでした。私は田舎に住んでいたので、東京に行かないと人生は開けないと思いました。東京に来たら次は米国に行きたいと。でも職業政治家は一度も考えたことは無かったです。小泉さんから、「これからすさまじい戦いになる。一緒に戦ってくれ」という強烈な言葉をかけられた時に大きなパッションを感じ、不良債権処理という難題に逃げないで向き合おうと思った。

04
CHAPTER
縁に気付く力が、より良い人生の時間を生み出してくれる

飛鷹 仏教の言葉に「縁」というのがあります。縁という言葉には我々の力を超越したものを感じることができます。何の力かわからないけれども、何か向こう側から頂いた感覚がある。でもそれが縁だと気付くのは、こちら側なんです。恐らく縁というのはある種の感動であり、つまり人生の物語解読力みたいなものなのかなと思います。小泉さんのパッションによって社会が変わる物語は、自分自身がコミットすべき物語だと読み解き得た人だけに、本当の実践ができたのでしょう。他の人にも同じチャンスはあったのに、実践できたのは先生と数人だけだった。そこに物語読解力の差を感じますね。

竹中 いやいや、私はそんなに読解できてないと思います。でも、振り返ると小泉さんやパソナ創始者の南部さんなど、何かやはり特別に違う人っているんですよ。彼らは、困った時に大事なことを言ってくれました。南部さんは、私が切羽詰まった時に不思議とパッと現れ、食事の帰りに「正々の旗、堂々の陣」と書いたお土産をくれました。そのとき、「正々堂々の語源を知り、自分は間違っていないという正々の旗を掲げて、ひるむことなく堂々と向かえと。堂々の陣を組んでも負けたならそれはもう仕方ない」そう思えたんです。その瞬間に一気に開き直れました。

実は、アカデミーヒルズの仕事も、お亡くなりになった森稔会長と小渕内閣の時に一緒に仕事をさせていただいたご縁です。当時多くの人は景気が悪いとか公共事業が大事だと言っていたけれど、これからの経済社会には都市が重要なんだと言って森会長は最後に涙を流して訴えたんです。僕はその時、この人はスゴイ!本物だと思ったんです。その出会いがきっかけで、今のアカデミーヒルズの仕事につながりました。

飛鷹 これまでの様々なお仕事は、まさに先生の人生の「縁のポートフォリオ」ですね。今日は貴重なお時間の中、素晴らしいご経験談をありがとうございました。

竹中平蔵のキャリアと時間に関するTIPS

Tips - 1
心にリダンダンシー(余裕・余剰)を持つ

社会的な時間と内的な時間のバランスをとるために、リダンダンシーを持つことを心がけている。松下幸之助さんの名言「心に縁側を持て」にも通じる。縁側というのは外か内かよくわからない位置付けの空間であり、そういう部分を心にも時間のマネジメントにも設けておくことが大事。

Tips - 2
日々フル稼働になりがちな分、自分を空っぽにする時間を設ける

水泳の息継ぎは「息を吸う」よりも「息を吐く」ことを意識すると上手くいく。同様に、まず出して空っぽにするということが大事で、そうすると自然に入ってくるべきものが入ってくる。酸素が必要だからこそ吐くという逆転の発想で情報と向き合っている。

PROFILE

竹中平蔵

アカデミーヒルズ理事長/東洋大学教授/慶應義塾大学名誉教授

ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年小泉内閣で経済財政政策担当大臣を皮切りに、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣兼務、総務大臣を歴任。博士(経済学)。
著書は、『経済古典は役に立つ』(光文社)、『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎)、『構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌』(日本経済新聞社)、『研究開発と設備投資の経済学』(サントリー学芸賞受賞、東洋経済新報社)など多数。

飛鷹全法

高野山高祖院住職

1972年生 東京出身
東京大学法学部卒。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻博士課程中退。
専門は比較日本文化論、南方熊楠研究。大学院在学中より、ITベンチャーの立ち上げに参画、ソフトウェアの開発に携わる。
その後、株式会社ジャパンスタイルを設立、国際交流基金等の事業で、中央アジア・中東・カナダ等で津軽三味線や沖縄音楽を始めとする伝統音楽の舞台制作を行う。
2007年より経済産業省主催の海外富裕層誘客事業(ラグジュアリートラベル)の検討委員に就任。
現在、高野山高祖院住職、高野山別格本山三宝院副住職、地域ブランディング協会理事。

インタラクティブセッションに向けて

第5回ゲスト竹中平蔵のプレインタビューでは、彼の素晴らしい人たちとの出会いの物語、良質なインプットのための時間術についてお届けいたしました。
インタラクティブセッションでは、モデレーターの飛鷹氏と参加する皆さんと共に、彼の思考時間マネジメント法について迫りたいと思います。
人生100年時代の今、時間を何にいかに投資するべきかを共に考え、それぞれが気づきを得られる場となることを目指します。ぜひご参加ください。

未来自分会議 <キャリア × 時間>
インタラクティブセッション

『キャリアアンカーを探る』

2018年07月30日(火)19時~20時30分 会場:アカデミーヒルズ(六本木ヒルズ)
参加費:5,000円 / 定員:30名
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飛鷹全法

高野山高祖院住職
GUEST

竹中平蔵

アカデミーヒルズ理事長/東洋大学教授/慶應義塾大学名誉教授
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