インタラクティブセッションレポート自分だけで思考する時間(2017年11月7日開催)

MODERATOR 飛鷹全法高野山高祖院住職 Profile

1972年生 東京出身
東京大学法学部卒。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻博士課程中退。
専門は比較日本文化論、南方熊楠研究。大学院在学中より、ITベンチャーの立ち上げに参画、ソフトウェアの開発に携わる。
その後、株式会社ジャパンスタイルを設立、国際交流基金等の事業で、中央アジア・中東・カナダ等で津軽三味線や沖縄音楽を始めとする伝統音楽の舞台制作を行う。
2007年より経済産業省主催の海外富裕層誘客事業(ラグジュアリートラベル)の検討委員に就任。
現在、高野山高祖院住職、高野山別格本山三宝院副住職、地域ブランディング協会理事。

GUEST 佐藤航陽株式会社メタップス代表取締役社長 Profile

1986年生まれ。早稲田大学在学中の2007年に株式会社メタップスを設立し、代表取締役に就任。2011年にアプリ収益化事業、2013年に決済事業を立ち上げ、2015年に東証マザーズに上場。
現在は、お金の流れを予測する人工知能の研究開発プロジェクトに従事し、直近では2017年9月に時間市場の創出を目的に「タイムバンク」をリリース。
フォーブス「日本を救う起業家ベスト10」、AERA「日本を突破する100人」、30歳未満のアジアを代表する30人「Under 30 Asia」などに選出。

はじめに

「未来自分会議」の第3回は、メタップスの代表・佐藤氏への<インタビュー>からはじまり、実際にインタビュー記事を読んで感じた疑問・関心を持ち寄る<インタラクティブセッション>へと展開しました。
“内なる心に耳を傾ける時に重要なことは?”“インプット・思考・アウトプットのバランスは?”といった問いを抱えた参加者が、聞き手に徹することなく積極的な質問を投げかけたことで、佐藤氏や飛鷹氏から新たな言葉を引き出し、登壇者・参加者全体で集合知を共有できる場へとなりました。<インタラクティブセッション>のレポートをお届けします。

自分の時間は会社にとってアセット。
だからこそ思い切った決断ができる。

飛鷹
日々お忙しい中、考える時間を保つ秘訣をどう考えていますか?
佐藤
私はいつも物事に優先順位付けをします。上から3つ目以下は重要ではないとして、思い切って捨てて意識から消します。「断捨離」という言葉がありますが、物ベースではなく思考ベースで断捨離をしています。社員からの連絡も事前にSlackで来るので、時間を割くべきか否かはその時に判断します。会社にいる時間の98%はほぼ耳栓を付けて過ごしていて、外界を遮断しています。自分の時間は完全にアセットだと考えているので、時間をどのように振り分けるかで会社の業績が完全に変わってくると思っています。だから、考える時間をとても大事にしています。
飛鷹
宗教や哲学でも「人は死するものである」という人間の有限性が、思想の原点になっています。有限な時間の中で自分の時間をどう使うかということを若い時から意識されていたと伺いましたが?
佐藤
今一瞬しかこの自分はあり得ません。今自分が感じていることを、きっと来年も再来年も同じように感じてはいません。自分の残り時間はあとどれくらいあるんだろう、ということもよく意識しています。
飛鷹
具体的にはどの様に時間を管理しているのですか?
佐藤
カレンダーに書き込んだり、その日に何をしたかを毎日自分自身にメールで送っています。それが日記にもなりますし、毎日の精神の痕跡となるので、後から参照して分析します。

自分のアーカイブが、自分の本質を教えてくれる。

飛鷹
ソクラテスの哲学では「汝自身を知れ」というところから全てが始まっています。これは人類最初の問いであり最大の謎かもしれません。会社経営者でありながら哲学者のようなことをされていますね。
佐藤
アーカイブを見ることで自分がその時、何に執着したり怒ったりしていたのか、自分の感情の根源が分かってきます。感情には軸足がないので、記録が残っていないと全て消えてしまいます。残すことで分析して、またビジネスにもつなげられます。この過程というのは、事業でやっていることと同じだと思うんです。アプリやサービスを見ながら課題を発見しPDCAに回していくというのを、自分の精神に対してもやっているのです。
飛鷹
自己省察が会社のPDCAにつながっていくのですね。
佐藤
自分の芯が定まっていないと会社もブレます。創業者や責任者である自分が何を考えているのか、どんなことが譲れないのか、という部分をしっかり自分の中で分解できていることが大事だと思っています。
飛鷹
大きな経営判断をしなければいけない人ほど、自己省察の時間を取ることが大切なのですね。
佐藤
経営は決断なので、最終的には自分自身が何をしたいのかということが分かっていないと、意思決定の速度が変わってしまいます。

有限な時間の中でこそ、良い経営判断が生まれる。

飛鷹
立場が上になればなるほど周囲に相談できる人がいなくなって、宗教などのほうに行ってしまうという経営者の話をよく聞きますが、佐藤さんの場合は逆で、寧ろ自己省察をしっかりやっていて自分自身というものが見えているから、現場へのブレークダウンの決断にも迷いがなくなるのですね。では、そもそも自分が思考していることが本当に正しいのかということは、どうやって判断し、納得するのですか?
佐藤
私は時間を完全に切って考えています。例えばもし自分が来年生きていないということを前提にした場合、今どうするか、というような考え方をしています。時間は有限であるという枠組みの中で思考すると、徐々に思考の範囲が狭まって一番大事な事柄が残るんです。
飛鷹
思考しながら逆に出口の見えないところに行ってしまうということは?
佐藤
たまにあります。でも期限を決めているとさほど思考は混迷しません。
飛鷹
なるほど。よく作家さんも「締切は創造の母」と言っていますね。より良くしたいという煩悩があると上手く書けなくなるが、締切があると必要な事柄が強制的に見えてくる、無駄なことがそぎ落とされて決断せざるを得なくなるのでしょうね。
佐藤
有限である、ということが一番重要だと思っています。無限であるなら判断も意思決定も必要ないんです。

「事業の理念やビジョン=宗教」とも言える

飛鷹
経営の話の中で「自己を知る」という密教の修行の原点に通じるようなお話をすることは珍しいし、面白いですね。今回のテーマでもある「自分自身の時間を内的に取り戻す」ということは、宗教的感覚にも近いものがあると思いますが、佐藤さんは宗教についてはどの様にお考えでしょうか?
佐藤
私は事業や経済のような複雑なコミュニティーにとって、その理念やビジョンが宗教のようなものだと思っています。逆に宗教のような共同幻想が無ければ、全体がひとつの共同体として存在し得ないと感じています。サービス、経済、会社、宗教、どれも作るコツはほぼ一緒です。共同体が信じている共同幻想がある、給料や功徳などの報酬がある、ヒエラルキーがある、コミュニケーションできる場がある等、ベースはどれも同じです。
飛鷹
老舗企業や宗教が経営学で利用されているのも、ある種合理性がありますね。私たちはジャンルによって物事を認識する癖がついていて、領域横断的に物事を見ることができず思考停止しています。でもそこをもう一度疑って考えてみることは大事ですね。
佐藤
私たちの事業自体が既にそういった既存のものを疑っていく事業なんです。あらゆるデータを見て構造を理解し、その構造が世の中でなんと呼ばれているかは一旦無視して疑ってみるんです。
飛鷹
抽象度を上げることでその共通本質が見えてきますね。今の時代ならではのことですね。
佐藤
そうですね。おそらく昔の人が直感で気付いていたことを、システムやデータで誰でも出来るようになったのが、今の時代だと思います。
飛鷹
最近はビッグデータのように、人々の行動様式も全てデータで取れるし、我々が無意識にやったことが可視化される時代です。なんだか自由と拮抗しているような感じもしますね。デジタル社会における自由と思考の関係についてはどう思いますか?
佐藤
全部自由な世界だと、人間は逆に困ってしまいます。枠組みや報酬などが決められていたほうが、人間はモチベーションが上がる生き物です。
飛鷹
我々の認識や活動もある種の限定があるからこそ、そこに自由がある。だから、どうしていいかわからない状況になったら、自分自身で限定線を引いていくということが重要になるかもしれませんね。ルール化やルーティン化が逆に我々の精神を自由にしてくれるという側面がありますね。

自己探求を続けることで停滞しない自分をキープする

飛鷹
佐藤さんは自分にメールを書くこと以外にルーティン化していることはありますか?
佐藤
よく「恐怖」について考えています。自分が何に対して恐怖を感じているのかが分かれば、今何をしなければいけないかが見えてきます。意思決定する時も自分が一番勇気のいる決断からしています。
飛鷹
佐藤さんの自己探求は永遠に終わらないですか?
佐藤
はい。大体理解したら、また次に行かなければいけないというアラートが鳴ります。8割分かったらもうここにいたらダメだと思うんです。居心地よい場所になってしまって刺激がなくなり、何も感じなくなってしまうからです。次の場所に移ったら自分自身を完全にシフトします。脱皮とも新陳代謝とも言えるかもしれません。
飛鷹
そういう精神の新陳代謝は宗教の世界でも同じで、諸行無常を認識することで現状の囚われから自由になっていきます。
佐藤
この考え方は事業の立ち上げともほぼ同じです。新しいものを入れて古いものを出していくということを繰り返さないと、全てが滞留して淀んでいきます。だから、常に考える時間を大切にし、思考の新陳代謝や変化というものを重視しています。

質疑応答

参加者
優先順位を付けるに当たって、気を付けていることを教えて下さい。
佐藤
優先順位を決めて3つ目以下を切り捨てるということは、場合によっては難しいこともありますが、「これをやらないことによって色々な問題が起こるであろう。それと天秤にかけてもこっちをやりたいか」というトレードオフの視点で判断します。「やりたいこと」よりも「やらなきゃいけないこと、やらないと後悔すること」のほうが優先順位は上です。全部を手に入れられる、という前提は一度捨てて、半分、あるいは1割しか手に入らないと割り切った前提にして優先順位を判断することもあります。対人関係も同じで、誰から嫌われるか、誰に共感を得たいのか、という判断基準にして優先順位を付けます。
飛鷹
人間は八方美人なところがあって、全方位的に調和したいという願望を持っていますが、こっちを取ったらこっちは取れなくなる、というのは必然ですね。
佐藤
はい。ですから私は意思決定が得意というわけではなくて、判断の中で「捨てること」が得意だということなのかもしれません。
飛鷹
なるほど。「意思決定をする環境をどう作るか」にフォーカスしている、ということですね。

登壇後コメント

インタラクティブセッションを終えたばかりのお二人に、感想を伺いました。

佐藤
私自身も普段からいろいろと悩んだり考えたりしているので、聴講者の皆さんと何ら変わらないと思いました。悩みの質は変わらない、ただ考え方が違うだけだと思います。考えることをルーティン化する時間をとっているか否かの違いです。
飛鷹
あらゆることに決断は必要なのですが、佐藤さんのような習慣を身に付けていると決断のハードルが低くなりますね。小さな思考の積み重ねが経営判断という大きな決断につながっていく。経営判断を怖いと感じる経営者は、この小さな自己内省の積み重ねが無いからなんだと思います。
佐藤
目の前の生活を楽にするのは、ノウハウやティップスのようなものよりも、自分自身が何を思い、何に感情を揺さぶられるのかということを知ることなんだと思います。それが分かれば、皆同じような考え方の習慣を持てるのではないでしょうか。僧侶や科学者の皆さんも、自分の欲しいものが分かっているから、きっと同じような思考回路だと思います。
飛鷹
確かに非常に近いものがあると思います。密教では「如実知自心」といって、自分のありのままの心を知ることが、修行のまず第一歩であり、またゴールであるとされていますので。
佐藤
外界から自分自身を遮断して「考える時間を強制的に作る」ということが、実は今日のテーマで一番大切なことなのかもしれませんね。一人でいる環境を作る方法を知ることですね。
飛鷹
佐藤さんのように会社で98%の時間を耳栓をして過ごしている社長でも、部下はぶれずに決断できる社長だからこそ信頼できるんです。現にこうして会社がとても大きくなっているという事実が、佐藤さんと社員の皆さんのつながりを物語っていますよね。
佐藤
社員は結局、社長の行動や言動ではなく数字や利益などの実績についてくると思います。だから、経営者として考えるための主観的な時間を増やして、それをアセット化しています。時間というのは客観的な数字の時間では意味がなくて、感性の時間が大事です。よって、人生80年としても40歳が折り返しではなく、20歳くらいが折り返し地点だと思います。今31歳なので、もうラストスパートなんです。
飛鷹
感受性も身体と同じで消費期限があるということですね。
佐藤
つくづく、こういう話は言語化するのが難しいですね。大体の事柄を、私は言語ではなく図などの「形」で把握しています。形が時間とともに動いて因果が見えてくるので、そこから論理を組み立てて世の中で試し、最後に言語に落とし込みます。言語としてアウトプットした時に、初めて自分は理解したな、と思うんです。
飛鷹
人間の知性の構造は、まずそういったインスピレーションで入ってきて、その後に言語化しますね。言語は非常に不自由なツール。だから空海も、密教を伝えるにあたって、お経だけでなく、曼荼羅を用いたのですね。物事の本質をヴィジュアル化することの重要性を、非常に早い段階から気付いていたんだと思います。仏教の歴史においても、当初は仏像は存在しませんでしたが、ギリシア文化の影響などによって作られるようになったわけです。物事の本質を伝えるためには、文字だけでなく、絵画や造形美術が必要だったわけで、まさにマルチメディアですね。佐藤さんもアートが好きだというのは、そういうことにもつながっているのかもしれませんね。

「未来自分会議」の第3回の<インタラクティブセッション>、いかがでしたでしょうか。 参加者からは、“何に自分は恐怖を感じるのかを探ることで意思決定しやすい環境をつくるという佐藤さんの考えを聞いて、まずはそこから自分なりの思考を始めようと思いました。”といった感想コメントが届いています。時間のデザインについてのヒントを掴んだ様子でした。
「未来自分会議」では引き続き、従来のトークセッションとは異なる形式で、参加者が自身のキャリアについて考える良質なインスピレーションを提供してまいります。

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